せき止められない

僕が居たのは、ワンルームの狭いアパートだった。そうだった。小さなテーブルの上には昨晩の食べくさしがまだ残っている。頭の中もまだ夢の続きを引きずっていた。未だにはっきりと目が覚めなかった。枕元の目覚まし時計は三時を指している。僕は十時間も眠っていた。空腹を満たすためだけに、布団を剥いで起き上がった。生臭い万年床からゆっくりと這いでて、冷めたカップ麺を少しだけすすった。朝から意味もなく泣いている。リアリティのない感覚にうろたえることさえ、もうすることはないだろう。鼻をかもうと、窓際に置いた日に焼けたティッシュを取った。逆に埃が舞って、くしゃみが出た。先週のはじめに買ったはずの、二リットルのポカリスエットはいつの間にか飲み干していた。蓋のないペットボトルはすっかり干からびていた。部屋に散乱している空のプラスチック容器を掻き集めた。数は数えなかった。このまま床に溶け出してしまいそうなほど体が重かった。僕はまた、買いに行かなければならない。

日がカーテンの隙間から差し込んでいた。次第にピントが外れていくまぶたの重みが気持ち良かった。スローモーションのように、視界がふやけていった。ラジオから何かが流れている。まだ幼い僕は、日陰で干したばかりで良い加減の冷たい羽毛布団に埋まっていた。僕は何を考えるわけでもなく、ただ揺れるピンク色のカーテンと白のレースだけを見ていた。玄関の鍵を開ける音がした。次に聞こえたのは、母の声だった。僕は起き上がって、母を迎えに出た。いまいちセンスのない花柄のテーブルクロスが掛けられた、木製の長机。黄色いスイセンの入った花瓶。僕が見ていたのは日当たりの良いしみったれた台所の夢だった。不埒な僕は、ただ楽になりたかっただけだった。

 

 

 

 

駄洒落

・塞き止められない

・咳止められない

・やめられない