落下傘

雨は全く止む様子がない。前髪からポタポタとしずくがしたたり落ちていた。この道は、濁った水溜りで埋め尽くされた粘度の高い湿地帯だ。立ち止まって靴底を見ると、模様に赤土がきゅうきゅうに詰まっていた。思わず鳥肌が立つ。はじめは水溜りを避けようとしていたが、後になるとジーンズの裾のことなどもうどうでも良くなった。僕は容赦なく泥水を跳ね飛ばして行った。ようやくのことで、三崎に追いついた。奴はスポーツ推薦で大学に進学したから体力には自信があるんだろう。だから、スマートフォンを僕から奪って走り去るなんて馬鹿なことをしたんだ。それに僕なら振り切れると思ったんだろう。だけど、追いついた。後先考えずに瞬発力だけで逃げ切ろうとするからだ。大事なのは持久力なのだ。それはたぶん僕の場合、何事においても。毎日市内をランニングしている健脚っぷりを舐めないでいただきたい。それにしても随分奥まったところまで来たもんだ。えらく広い駐車場、そしてうずたかくそびえ立つコンクリート片の山。ここは、使われなくなった工場かなにかなんだろうか。三崎は息を切らしてひさしの下にしゃがみこんでいる。その奥にはドラム缶がいくつかほったらかされていた。どれも酷く錆び付いている。錆び付いているといえば、僕が来た道から見た建物の方は、逆に緑青に覆われていた。ともかく、今は僕のスマートフォンを取り返すことが先決だ。見おろすようにして、しゃがみこんでいる三崎に催促する。三崎は顔を上げた。なんだか腑抜けたというか力が入らないというような顔をしている。話を聞いていないのだろうか。返事をしないで、肺から搾り出すような荒い呼吸をするだけだった。再度話しかけようとしたとき、僕の股下を得体の知れない生温いぬめりが流れていった。赤い。ザラついた灰色のコンクリートに赤く染みが広がる。三崎の太ももを伝ってーー突然三崎は立ち上がり、また走り出した。でも、余りにも遅い。足がついていかないようだ。後を追いかけた僕は肩に手をかける。三崎は、観念したように振り向いた。僕を呆然として見つめている。あとは、返してもらうだけだ。そうやって、すっかり油断しきった僕を、三崎は目一杯の力で突きとばした。咄嗟に手が出ただけまだ良かったかもしれない。僕は尻もちをついた。雨水でぬかるんだ地面に、手の跡が付くくらい漬かってしまった。怯んだ隙に、また三崎は逃げ出した。もうなんだって言うんだ。今度は先ほどの廃工場から反対方向だ。こちらの道は粘着質な泥ではない。シャーベット状の砂利道を走る。さっきから何かむず痒いなと思えば手のひらから血が出ている。突き飛ばされたぬかるみにかなり砂利が混じっていたから切れてしまったのだ。一度見つけてしまうと傷口が気になって仕方ない。いい加減、終わりにしよう。せめて、日没までにはこの不毛な追いかけっこを終わらせよう。

 

 

 

 

 

駄洒落

落下傘

落下SUN

日が落ちる

日没