揺さぶり

「何かここに絵でも描いといてよ」

濃いピンクの画用紙に書いたちゃちな料金表の空きスペースを指さし、黒のサインペンを手渡した。横目で覗き見ると、ミハルは年の割には少し幼い、ちょうど女子小学生が描くようなアンバランスなうさぎやハートをためらいながら描いていた。それを見て僕は肝を冷やすような思いがした。目の前に居るミハルはやはり生身のおんななのだ。そのおんなにも未だ自分のことをよく知らないで、親の手の中に柔らかく包まれている子どもだったときもあったのだ。例えば画用紙にクレヨンで太陽や花を書き殴り、無邪気に見せびらかすような……。それなのに僕には到底手の届かないことを、彼女はこともなげにケイケンしている。少しだけ不気味であり、それでもどうにかして守ってあげたかった。それは無償で無条件の存在愛だった。ミハルにそんなことして欲しくなかった。視界の端には体の線に沿う滑らかなフレンチスリーブのワンピースからにょっきりはえているミハルの生白い太ももがあり、僕にはその肉が急に現実味を帯びたような気がした。そして薄布で隠れたその肉を想像することで僕はミハルと一体になれるような気もした。

無題

汗の香りがプンプンとのぼり立つような完熟体を目前にして、ぎょろついた視線を余すところなく泳がした。ねめつけるような視線がいたく扇情的でぼくは全身の性感帯をねぶられているような気分になった。そんな目をしていても怯えて、ぼくが一発殴ってしまえば倒れてしまうくせに、妙に強気な態度を取ってみたりして、そんな女のいじらしいさまに感動した。とりあえず敷布に膝立ちさせて薄手のプリントTシャツを脱がせた。その身体の線イッパイに成長ホルモンが迸っているような目一杯パンパンに膨らんだ太ももを味わうように両の手のひらでひっ掴んで揉みに揉んだ。仄かな肉肌の香りが漂ってくる。「女豹のポーズして!あとズボンさげて」ぼくの馬鹿げたリクエスを素直に聞き入れることしか出来ないマヌケな娘だ。辱められていることでプライドがグチャグチャにされてるんだろう。悔しいだろうなあ。スポーツブラもたくし上げさせて、そのまま四つん這いにならせた。だらしなく垂れ下がるでっぷりと熟れた双丘に顔面をうずめて、息が苦しくなるほどにその甘やかに熱帯的な香りで鼻腔を充填する。万年床の黄ばんだシーツの上に仰向けに転がし両足を掴んで外陰部がまる出しになるようにM字に開脚させ生白い腹をしげしげと執拗に観察した。少し刻んで上下する腹部をギュっと上から全体重をかけて掌でグッと押し潰してみた。「ウッ……」嗚咽とも取れるような搾り出したような呻き声をあげたその惨めな姿にぼくは興奮していた。ぼくはぐったりした上半身を起こしてみっともなく股をおっぴろげさせた。目覚まし時計の横に置いてあるスマートフォンで「陰部 部位」と検索する。左手でスクロールしながら右手で太ももを持ち上げてホンモノを確認している。「ここが恥丘、このビラビラが小隠唇?あ、これが穴……へー」正直膜という感じは全くしない。何本入るだろうかと悩みつつもとりあえず三本ほど、いたずらに指を突っ込んでみた。ズポズポと冒とく的で暴力的な侵入を惜しげも無く行う。指先を入口の狭い口元でギュッギュッと出し入れする度に、痛がるように背中を強張らせていてたいそう可愛らしかった。そのうち興が覚めたので、いよいよ我が偉大なる醜悪なソレをぶち込むことにした。燻んだピンク色に膨れたそれたちはもう準備万端ホンバンモーマンタイという出で立ちであり、ぼくは遠慮なしにぶくぶくに腫れ上がったぼくのぼくをそこにヌチヌチとキツい子宮口にひねり、ねじ込み、次第にぬるくてあたたかいぼくを包み込んでぼくを包み込んでくれるような気分になった。「ひっ、ひぃ゛っ」腰を雄々しく打ち付けるたびにいやらしい悲鳴をあげた。揺れている。ぼくも揺れている。原始的な動物めいた欲望のままに体を動かすたびにたかぶっていく。「いたい、いたい、い、い゛たいいい、いたい……い゛っ」女が腰をくねらせるたびにぼくの卑小な御大はキュキュンとツボを刺激されてますますますます、もーどうにもならない。いきりを注ぎ込むようにコスれるたびに脳ミソがじゅわじゅわととけるように熱でのぼせるようにして何度目かで多分全てを出し切った。妄想。





駄洒落

無題→新年から台無し(題無し)

あいの似姿(仮)

起きぬけでよどんだ頭は、部屋着に残る体温だけを感じている。冬場の台所は冷たい。このまま淋しさが敷き詰められているような空しい空間に取り込まれていても仕方なかった。喉が渇いたので水を飲む。水垢のこびりついたシンクにダバダバと流れ落ちる流水が妙に不安を誘う。冷たい水を一気に飲み干した。電灯も付けないでいるので、薄墨色に濁った夕日がカーテンを開けるとよく見えた。しばらく眺めているとポツポツと佇む街灯しか見えなくなってしまった。そのとき、ガサゴソと音がした。襖を隔てた向こう側にはおとうさんが居る。今は、もう二十時……私は何時間寝ていたんだろう。ヒーターのスイッチを回してカゴに積まれたみかんを三個とった。ひとつはつぶれている。爪を切ったばっかりに剥きにくい。お腹減ったな。指先が黄色に染まっていく。ママはまだ帰らない。

体重を乗せるようにして掌を私の頬にぶつけた。赤く点滅した視界の先にぶるんと脂ぎった厚い皮膚が鈍く揺れたのが見えた。指先が耳に当たったのか、左耳からは膜がかかったようにしか、音が聞こえない。距離感の掴めない面倒な音波が聞こえる。いつまでもチャンネルは合わないでグルグルと無心でツマミを回しているような気分になる。この人は……いつも何かに対する怒りを我慢出来ずに、抑えようともしないで衝動的に私を叩く。次の日には当たり前のように冷蔵庫には私が小学生の時にたまに欲しがった、スーパーで売ってるだろうプラスチックの蓋が被さった苺のショートケーキが鎮座している。少しでもカロリーを摂りたいので食べると満足したように私と台所を隔てるふすまの妙な隙間をそっと閉める。そのうち鼻につくタバコの匂いがベランダ側から漂ってくる。このスーパーのケーキが、私の値打ちだ。今でもおとうさんの頭の中の私は小学生のときの私で止まっていて、目の前にいる私は私という記号でしかなくて実体なんかじゃなくて、ただの昔の私を投影するためのスクリーンなのかもしれない。(ほだし生縛り)

「ねえ!どう、コート買ったの。似合う?」美香が嬉しそうにぐるぐると一回転してみせた。その瞬間、私には全て分かってしまった。白のダッフルコートをまとった彼女は、自分の可愛さを知ってしまっているのだ。自らの容姿の魅力を理解していて、それをふんだんに利用しているのだ。自信があるのだ、自分に。ソレを自信満々に自慢げに着ても、だれからも白い目で見られないという自負が。私には明るい色のものを着る勇気がない。特に真っ白い色のものなんてなおさら着られない。これは私の思春期にぶくぶくと育ってしまった自意識過剰なルール意識のせいでもある。私がまだそういうものに過敏になる前の小学生の頃でさえ、その色自身が「女の子」の象徴的な存在であり、それを猛烈にアピールしているピンク色の物を持つことを気恥ずかしく思って、というかかわいこぶりっ子しているような気がして避けていた。中学生になると、友達共々陸上部に入部することにした私には身に付けるものについて先輩たちから事細かにルールが課せられていた。そのルールはどうしようもなくどうでもいいもので、馬鹿みたいで理不尽だけど、でもとても大切なものだった。少なくとも穏便に過ごしたい私にとっては絶対に守らなきゃいけない決まりだった。一年生のうちは靴下の色は白じゃないといけなかった。二年生になってやっと紺のソックスが履けるようになる。入部してからすぐには三年生の先輩たちは「ウチらが苦労したからあんまりそんな感じのことはしたくないからあんまり気にしないで」と優しい態度を見せてくれた。だけどいざ紺のソックスを履けばほかの部活の三年生がすれ違うとき、全校集会のとき、足元をちょっと見ていくのだ。結局私たちは最初の一週間くらいで履くのをやめた。優しいそぶりをしてくれた先輩たちも別に優しいわけではなく、お互いにぎこちなく妙な距離感だった。やはりどこまでいっても先輩たちは怖かった。かばんもそう。スクールバッグも二年生から、リュックは三年生になってから……。一年生の冬場のカーディガンは地味な色。防寒具も派手じゃないの。晴れて三年生になっても、私のような女はパステルカラーのカーディガンなんて着られなかった。可愛い女の子達はパステルピンクやブルー、真っ白いカーディガンを何のためらいもなく着こなしていた。コートだって子供じみた野暮ったいダッフルコートしか買わなかった。高校生になっても結局選んだのは安売りのユニクロのダッフルコートだった。学生のうちにPコート着ておくんだったな。どんなに流行りのコートを買ったって私には何にも似合わない。今年もダウンかモッズコート。それかフードがついたやつ。ノーカラーはお上品すぎて私には合わないし、チェスターは着る勇気がない、何もかも似合わない。また暗色の中に沈んでいく。冬になり、新しいコートを買おうとする度に思い出すのだ。もうここまできたら呪いみたい。みたい、じゃなくてそのものかも。私は私であることを誰よりも分かってるのに、店に入って鏡を見る度に、私が着てはいけない色なんだと何度思っただろう。もうすぐオバサンになってしまうからその前に、そんな思い出を振り切りたくて買ったはずだったのに……。ラストチャンスだったかもしれないのに。クローゼットの中の新品のコート、真っ白いロング丈のダッフルコート。店員さん曰くロング丈なら大人が着ても違和感ないんだってさ。まあその場だけのテキトーな嘘かもしれないけど信じてみたのよ、あの日は。財布も新調したかったけど半年ほど我慢することにしたの。コツコツ貯めたへそくりじみたお金もそのためのものなの。それを難なく着てみせるのね、美香ちゃん。「すっごく、可愛い」私は吐き捨てるみたいに感想を呟いた。ちょっと背が低くて、毛先を巻いてて、色白なカワイイ女の子。まだ若くて、未来もあって……私が欲しかったものをすべて。もう私はこんなところまできてしまった。「ホント?ねえ、変じゃない?」ううん、とっても可愛いの。「変じゃない、似合ってるよ」似合ってるよ美香、泣きたくなるくらい。

「ただいまー !」私が玄関の鍵を開けると、美香は誰もいない部屋に向かって挨拶した。パチと明かりを点ける。「あんたん家じゃないでしょー」ぼやき気味に呟くと美香は靴を揃えてリビングへと入っていく。「でもほぼほぼ私の家だよ、もうね」これだけ入り浸っていれば、まあ……というより彼女よりも滞在期間が短い家族が居ることが問題かもしれない。私の夫は今日も忙しいものね、結構なことだけど。エライ大荷物ね、ぶら下げたバッグを見て素朴な感想が漏れた。体操服と習字道具と絵の具道具ってところだろうか、あと白い手持ちの紙箱。「重たいよ、結構。あ、ね、これ、ケーキ買ってきたの。そこのケーキ屋で、一緒に食べよー」美香が自分の小遣いで買ってきてくれたのだろうか、多分そうだろう。「え、私も良いの ?」美香は箱を開いて、あれこれ説明しだした。「これがレアチーズケーキで、これがブルーベリーとなんかのタルト……あとマカロン、フランボワーズのと抹茶のと、クッキー」よほど見せたかったのか、私の反応は気にも留めない。「でももう7時半だから、今食べたら夕飯入らないでしょ」冷蔵庫を開いて食材をしまおう。今夜は寒いので鍋にしたい。隙間を埋めるようにして詰めていく。ねぎ、うどん、つくね、鶏肉、白菜、便利な鍋の素……。「え、今日食べてって良いの。旦那さんは ?」きっと今夜も帰らないんでしょう。そうなの、私知ってるもの。「良いの良いの、どうせ帰らないから」諦めるのもとうに通り過ぎてため息混じりの返事も随分軽いものになってしまった。「そう ?じゃ、遠慮なく……」それじゃあケーキは冷蔵庫に入れておかないとね。やわらかい重みを感じる小さな箱を潰れないように一番上に置いた。(あいの似姿)

うまくいかない

斉藤はヨウコと名付けたメスの猫を飼っている。今年のゴールデンウィークに引き取り手を探していた親戚からさずかった猫だった。やや忙しいバイト生活に明け暮れる斉藤にとっては行き場のない寂しさを紛らす唯一の救いである。ヨウコという人間の女のようなその名前の由来は、去年の夏の終わりから春にかけて半年ほど付き合って別れた元カノの名前からとったものだ。だからといってその猫をそのヒトの代わりにしているのかといえば別にそういうわけでもなく、ただ単に名付けるための名前におけるボキャブラリーが貧しかっただけである。しかしひとたびこのヨウコという名前が友人にバレてしまえば誤解を招くことは必至であり、免れることなく「キモい」とか「未練タラタラ」とかなんとか納得のいかない不名誉なレッテルをベタベタに貼り付けられ、気持ちの悪い男という印象を振りまいてしまうことになるので猫の名前を秘密にしている。けれどもやはり猫は可愛く、その可愛さのあまり写真に撮っては自慢をしたいと何度も思っていたが、その度に「いけない」と考え直しこらえてきた。そのような秘匿の生活を長らく送っていたが、もうどうにも止められず、つい名前を口走ってしまいそうだったため友人たち、あるいはバイト仲間の前で呼ぶための仮の名前を考えることにした。そもそも名前が思いつかないからといって当時身近であった元彼女の名前を付けてしまうような男がそんなすぐに新しい名前を思いつくことが出来るはずもなく本末転倒のような状況に陥っていたが、斉藤は頑なにマイルールを大事にする男だったので「元カノの名前を転用して名付けた飼い猫の名前をバレないようにすること」さえ守ることができれば、本来斉藤にとっては難題なはずの名付けも難題には変わりないが些細なことと化していた。しかしその難題もとうとう解決する日が訪れた。三日三晩悩んでも一向に思いつく様子が見られず、その打開策として他の何かから名前を拝借するということを思いついたのだ。斉藤はバカだったのでそんなことも今まで思いつかなかった。思いついてしまえばすっかりこちらのものであり、難題ももはや過去のこととなり、あとはそれに適するような何かを見つけ出せば良いだけである。そういうわけで斉藤はバイト先であるコンビニで見つけた駄菓子から名前を拝借し、他人の前ではヨウコをよっちゃんと呼ぶことにした。

夢の猥雑

6/4固まる

感覚の無くなった手を必死になって揉みしだいた。現実味を帯びた生々しい夢から覚めきれないでいる。指先をきゅっと小さく折り曲げた。肉薄するリアリティに怯えながら、それでも何とか自分を鼓舞しようと、いつものようなルーチンワークをよどみなくこなしていった。

5/21溺れる

気がつくととろみのある液体の海に沈んでいた。その液はほのかに熱を帯びていて、そのうち体の中まで浸水し、このまま皮膚や臓器が溶け出して消えてしまうのではないかという恐怖を抱いた。今すぐにでもそこから這い出たいと思ったものの、重たいぬめりに足を取られて抜け出せない。しばらくもがいているうちに、何とか顔だけは外に出すことが出来た。首を振って、纏わりついた粘液を飛び散らした。片栗粉を溶かしたみたいだと思いながら、ひとつかみ掬い上げて手を開くと、その液体は指の股からとろりと滑り落ちた。何の臭いもしなかった。初めから分かっていたような胸騒ぎと奇妙な安寧の訪れを何のためらいもなく受け入れて、立ち並ぶビルの上から西日を眺めている。感傷的な淡い光源に包まれながら、ただ浮上と下降の波にたゆたうのは紛れもなく自分だけだと分かった。